《短編》猫とチョコ
『…じゃあ、ヒナが起こして。』


「ハァ?!」


その言葉に、眉をしかめた。


“起こして”ってことは、今までいつも寝てたってこと?


じゃあ、仮にも心配してやったあたしは、一体何?


引き攣るあたしをまるで無視したように、

みぃはあたしが机の上に広げていたノートにペンを走らせる。


書かれていたのは、携帯番号。



『頼んだ。』


「ちょっ、何であたしが?!」


『…いや、別にどっちでも良いけど。
ヒナが起こしてくれないと、留年するだけだから。』


「―――ッ!」



脅しですか?


てゆーかみぃは、このままだと本気で留年しそうだし。


義理も何もないけど、起こさなかったらまるであたしが悪いみたいじゃない。



「自分で起きろ!」


『…無理。
雨だと体ダルイっつーか。』



本気でダメな男だと思った。


そして、本気で猫なのかと思った。


考えてみれば今まで、雨が降っていてみぃが来ていたことなんて数えるくらいしかない。


考えを巡らせているあたしを尻目に、

みぃは登校したばかりだというのにさっさとどこかに消えてしまった。


残されたのは、ポカンとしているあたしと、ノートに書かれたみぃの携帯番号。



「…もぉ。
女に頼めよ、あたしじゃなくて。」


呟いてみても、当の本人はどこにも居ない。


虚しさを増幅させる雨音だけが、窓際のこの席でより一層大きく聞こえた。



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