《短編》猫とチョコ
翌朝、みぃの携帯番号を打ち込んだまま手が止まっているあたし。


さっきから、ずっと睨めっこ状態だ。


いい加減家を出る時間も近づき、仕方なく意を決して通話ボタンに親指を掛けた。



―プルルルル、プルルルル…

コールが鳴り響くたび、“早く出ろよ!”と怒りさえ込み上げてくる。


まったく。


何であたしが、こんなことしてんのよ。



『…ん~…誰ぇ…?』


まだ寝惚けているのかみぃの声が聞こえる。


ガサガサと音がしてるってことは多分、まだベッドの中だ。



「…あたし、ヒナ。」


『あー…。』


聞いているのかいないのかの声に、やっぱり口元が引き攣って。



「起こしてあげたんだから、絶対学校来てよね!
これで留年とかになっても、あたしの所為じゃないから!」


『…うるさいって、もぉ…。』


そのままブチッと声が途切れた。


続いて聞こえてきたのは、通話終了を知らせる規則的な機械音。



「…切りやがった…?」



ありえなさすぎて、絶句だ。


大体にしてみぃは、自由すぎる。


奔放でいつも、掴みどころがない。


なのにたまに、機嫌を取るように擦り寄ってくる。


世話を焼いてもまるで当たり前のような振る舞いで、

そこがあたしをイラつかせるポイントでもある。


人生の8割は寝てるのかってくらいだし、

だけどたまに、驚くほどに凛とした表情をすることがある。


まるであたしは、みぃの飼い主。


そんな現実を分析しながら、フラフラとあたしは、家を後にした。



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