《短編》猫とチョコ
―――あの日から、ちょっと経った頃。


セミの声は耳障りなほどに大きくなり、日差しはあたしを焦がすほどになった。


友達と遊びに行ったり、家族で遠出したり。


彼氏のことは、もぉ吹っ切れた。


みぃとは連絡を取ったりはしてないけど、

一応“生きてますように”と祈っておいたし、大丈夫だろう。


そんな日々を過ごす中、サクラに呼び出され、あたしはファミレスに向かった。





『…お祭り以来だよねぇ。
何だかんだ忙しくて、ヒナとなかなか会えないし。』


口を尖らせながらサクラは、水滴の垂れるコップをストローでかき混ぜた。


“ヒナは?”と聞かれ、あたしは考え込んでしまう。



「う~ん。
彼氏と別れたし、結構暇かな。」


『えっ?!別れたの?!』


サラッと言ったあたしに、サクラは身を乗り出して目を見開いた。


笑いを堪えながらあたしは、言葉を掛ける。



「…まぁ、色々とね。」


それだけ言うあたしに、サクラは戸惑うように言葉を探した。


だけど、悲しい空気になんてなりたくなかったから。



「…それより、あの後春本くんとどーなったの?」


『―――ッ!』


瞬間、サクラの顔は真っ赤になった。


暑さの所為なんかではなく、明らかにあたしの言葉でだ。



「…もしかして、付き合ったりとかって展開になっちゃってんの~?」


ニシシッと笑うあたしに、ユデダコさくらは恥ずかしそうにストローに口をつけた。


本当に、わかりやすいヤツだ。



「おめでとう!」


『…ありがとう。
でも、ホントにヒナのおかげだよー!!』



もぉ当分は恋愛なんて懲り懲りだけど、サクラを見てるとちょっぴり羨ましい。


あたしもそのうち、って。


はからずも、そう思ってしまう自分が居た。



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