《短編》猫とチョコ
『…ヒナ?』


名前を呼ばれ、急いで手元に落としていた視線を上げた。


ぶつかる視線に、何故か心臓の音が早くなって。


あたしは今、どんな顔してる?



『…何?
もしかして、俺にキュンとしちゃった?(笑)』


「なっ、ありえない!」


思わず声を上げた。


みぃのこと、意識したことなんてなかったけど。


今まで、こんな台詞当たり前にみぃは口にしていたけど。


何故か今日は、違って聞こえる。


何も考えずに、いつものように天然で言ってるってわかってるのに。


いつもはクラスメイトで活気に満ちている教室が、今日は静まり返っていて。


あたし達だけの広い空間で、みぃの顔が嫌に近い。



『…俺、疲れたしさぁ。
まだ日にちあるし、明日やろうよ。』


“な?”と言ってみぃは、甘えたように顔を傾けた。


今までみんなが“格好良い”とか言っても、そんな風には思えなかった。


見慣れすぎてるはずなのに。


柔らかそうな髪の毛と、整ったパーツ。


ヤバイほどに、ドキッとしてしまう。



「ははっ!そうだよねぇ。
あたしも疲れちゃったし!」


乾いた笑い声を上げ、あたしは逃れるように背伸びをした。


自分自身に、違う空気を注入しなきゃ。



『…根詰めすぎんなよ?』


「―――ッ!」


まるで子供にするようにあたしの頭に手を置き、みぃは優しく笑う。


あたしより背が高いとか、あたしより手が大きいとか。


当たり前なことに、今更気付かされて。


何かが狂いだした瞬間。



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