《短編》猫とチョコ
唇を噛み締めると、言葉が出なくて。


黙るあたしに、沈黙が流れる。


何を言われるのか、怖かったんだ。



『…ヒナ。
今って、家?』


「…うん…」


かすれそうな声で、あたしはそれだけ言った。



『…じゃあ、今からちょっとだけ出て来れない?
ちゃんと、話したいから。』


「―――ッ!」


ドクンドクンと、体中が脈打つのを感じた。


今行かなければ、本当に終わってしまう。


返事をしてからすぐに、上着を羽織って家を飛び出した。


お化粧だってしてないし、全然可愛くない格好だけど。


街中を占めるカップルと、それに彩を添えるイルミネーション。


目が眩みそうになった。


だけど負けてしまわないようにあたしは、

止めれば凍りつきそうな足を踏み出した。


建物の壁に寄りかかっているみぃを発見し、息を切らしてそこまで近づく。


肩で息をしながら懸命に呼吸を整え、やっとあたしは、みぃの顔を見上げた。



『寒くない?』


そう言ってみぃは、あたしにミルクティーを差し出した。



『…ホットのイチゴジュースは残念ながらないからさ。
ミルクティーとココア、迷ったんだけど。』


イキナリこんなことになって、あたしは言葉すら用意してなかったのに。


そんなあたしにみぃは、

“ちょっと冷めたかも”と言ってそれを、あたしの手の上に置いた。


結局みぃは、どこまで行っても優しすぎるんだ。


だから、苦しいのに。


髪の毛を直すふりをしてあたしは、顔を俯かせた。



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