《短編》猫とチョコ
「…それより、話、あるって…」


『それ後!
時間ないから走って!』


途切れ途切れに言うあたしの腕を引っ張り、みぃは走り出した。


今しがたあたしは、全速力でここまで来たって言うのに。


“待って!”と声を上げるほど、呼吸は正常に戻ってなかったのに。


何が起きてるのかなんて、まるでわかんないけど。


突然に立ち止まるみぃに、息も絶え絶えのあたし。


相変わらず、振り回されてるし。


久しぶりの再開に図らずも期待していたはずなのに、今は怒りさえ込み上げてきた。



『…見て、ヒナ。』


その言葉に、あたしはゆっくりと顔を上げた。


そこに広がっているのは、眩いばかりのイルミネーション通り。


圧倒され、言葉さえも出てこない。



『…凄くない?
ヒナに見せたかったんだ。』


目を細めながら、みぃは顔を緩ませる。



『…文化祭の日の約束、覚えてる?』


コクリと頷くあたしに、みぃは言葉を続けた。


『…お礼したかったけど、何すればヒナが喜ぶのかわかんなかったんだ。
遅くなったけど、これで許してよ。』



きっと、忘れているんだと思っていたのに。


ずっとみぃは、考え続けてくれてたの?



『…ごめんな、ヒナ。』


「―――ッ!」


“ごめん”なんて、みぃの口から初めて聞いた。


多分、謝らなきゃいけないのはあたしの方なのに。



「…あたしも…ごめん…」


こんな綺麗なものを見ていると、自然と心洗われた気がして。


自然とあたしは、素直になれてたんだ。


その瞬間、一斉にイルミネーションが消えた。



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