《短編》猫とチョコ
「…何…?」


驚くあたしに、ゆっくりとみぃはこちらに顔を向けた。



『…これ、12時ジャストに消えちゃうんだ。
だから、時間なくって。』


“メリークリスマス”


そう言ったみぃに、あたしは呆れるように笑った。


だったら、ギリギリの時間になんか呼び出さなきゃ良いのに。


だけど握っているみぃの手が冷たいことに気付いたから、

仕方なくだけど許してあげた。



『ヒナ、何か欲しいものある?』


「…欲しいもの?」


『今、サンタさんが飛びまわってる時間だろ?
だから特別に、俺がヒナ限定でサンタさんになってやるよ。』


「―――ッ!」


本当にみぃは、天然なんだと思う。


だけど相変わらず、あたしを喜ばせる言葉を無意識に言うんだから。


敵うはずがない。



「イチゴのチョコ。
しかも冬限定で、一番高いヤツ!」


『任せなさい。』



本当に欲しかったのは、みぃの彼女の座。


だけど願い事なんて、贅沢を言えば絶対に叶わないから。


だから今は、これだけで良い。



『ヒナって、イチゴとチョコ好きだよなぁ!
あと、ミルクティーも?』


「みぃだってそうでしょ?
それに悪いけどあたし、ミルクティーよりココア派なの!」



あれほど輝いていたイルミネーションは消え去り、点々とあるのは街灯の灯りだけ。


なのに迷子にならなかったのはきっと、みぃがちゃんと手を繋いでいてくれたから。



『そっか。
じゃあ、ちゃんと今度は間違えないようにしなきゃ。』


“怒られそう”と言いながら、みぃはおどけたように笑った。


だけど“今度”と言ってくれたことも、覚えてくれるのも、嬉しかったから。


ちょっとムカついたけど、今日は全部許してあげるよ。



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