《短編》猫とチョコ
居なくなったと思っていた猫は、結局あたしのところに戻ってきた。


餌付けしたつもりなんてないけど。



コンビニで約束通りみぃに、イチゴのチョコをプレゼントされた。


ラッピングも何もないけど、やっぱり嬉しかった。



「何でみぃが先に食べるの?!」


『良いじゃん!
ヒナのために毒味してやってんだろ?』


物は言い様だ。


口を尖らせるあたしに、みぃは口に入れようとしていた手を止めた。



『…わかったよ、もぉ。』


そう言って持っている一粒をあたしの口の前に運んだ。


戸惑うように目を見開くあたしをよそに、みぃは当たり前のようにそれを入れた。


されるがままとは、まさにこのこと。


口の中に広がる甘いばかりの味と、唇に触れたみぃの冷たい指先。



『ヒナって、雛鳥みたい。』


「―――ッ!」


自分がやったくせに。


完璧にみぃは好き勝手に戻っていて、そしてあたしを振り回す。


口の中イッパイに甘さが広がっているはずなのに。


上手く味わえないほどに、心拍数ばかりが上がる。



『…美味しいの?』


反応を見るようにみぃは、あたしの顔をまじまじと覗き込んだ。


近すぎて、どーして良いのかわかんなくて。


とりあえず、このバクバクしてるのが聞こえそうで怖い。



「すっごく、うん、美味しい、です。」


『…何か、微妙そうな反応だな。』


口から流れるままに言葉を投げるあたしに、

何を勘違いしたのか不満そうなみぃの顔。


確かめるように一粒を取ってみぃは、それを自分の口に運んだ。


“美味しいのになぁ”と、首を傾けられて。


相変わらず、返す言葉ばかりを必死で探してしまう。



< 50 / 65 >

この作品をシェア

pagetop