《短編》猫とチョコ
サクラと一緒に材料を買い、家に帰って何度も作り直す。


華やぐ街の景色はピンクのハートに埋め尽くされ、愛が溢れてこぼれそう。


こぼれるくらいなら、いっそあたしに分けてよ。


振られるためにチョコを作るなんて、馬鹿みたい。


甘いものが大好きなみぃにとって、バレンタインなんて最高の日だろう。


大好きなチョコを、たくさんの女の子からイッパイ貰えるんだから。


その中にあたしのが混じってたって、きっと気付かないのだろう。


だけど気付いたら、拒否されるのかもしれない。


エプロンに、チョコが飛び散りシミを作る。


あたしの心の中にも、こんな色したシミが出来て残るんだろうか。


消したくても消えないような、茶色い色。



作り終えたチョコを、一粒口に運んだ。


出来る限り甘くしたはずなのに。


おかしいな。


そっか。


あたし今、泣いてるんだ。


甘い甘いはずなのに。


何故かほろ苦い、涙の味。


これじゃちっとも、味見になってないじゃん。



“わかったよ、もぉ”


クリスマスのあの日、みぃはあたしの口にチョコを入れてくれたのに。


文化祭の日と一緒。


過ぎてみればそんな時間、夢まぼろしのように消えるんだ。


楽しかった、取り戻せないあの日。


明日あたしは、振られるって言うのに。


あたしを振る男のこと、こんなにも考えてるなんて。


あたしにだけなついてると思ってたのに。


結局、親友の彼女の友達だっただけ。


みぃにとって、それ以上でも以下でもない。


わかっていたはずなのに。


いつの間にこんなにもあたしは、みぃに期待してたんだろう。


本当に、馬鹿みたい。



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