《短編》猫とチョコ
言う前に、あたしのチョコを受け取ってもらえないこと確実だ。


チャラかったみぃが、女の子に対して真摯に断るなんて。


しかも、チョコ大好きなくせに。


その他大勢のなんか、いらないってことだ。


泣くことなんて、覚悟してたのに。


なのにいざ涙が出始めると、もぉ止められなくて。


涙のしずくが、銀色のラッピングにこぼれ落ちる。


先ほどまではオレンジだった陽が窓から眩しく部屋の色を染めていたのに。


なのに今は、薄墨で塗りたくったような色が広がる。



『ヒナ!
遅くなって―――!』


「―――ッ!」


まさかと思った。


みぃも高岡さんも、どれが本当なのかわかんないから。


先生に呼び出されたって言ってたのに、女の子に告白されてたみぃ。



「…何っ…!」


『…つーか、泣いてんの…?』


薄明かりを頼りに、みぃはゆっくりとこちらに足を進める。


見られたくなんてなかったから。



「ごめっ、帰るね!」


俯いたまま立ち上がり、逃げるために足を進めた。


だけど瞬間に、捕らえられたあたしの腕。



『…何か、あった?』


「―――ッ!」



あたしを心配する、みぃが嫌い。


いつもいつも思わせぶりで、振り回されたくなんてないんだ。



『…チョコ、だよな?
誰かに渡すの?』


“それとも、渡せなかったから?”とみぃは、

無理やり詰め込んでかばんから顔を覗かせるそれに、目線を移した。


こんな仕打ち、残酷すぎる。



「離してよ!!」


振り払おうとしたのにみぃは、その手の力を強めた。


暗闇の中見たみぃの顔色が、全然読み取れなくて。


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