《短編》猫とチョコ
「―――ッ!」


突然に、柔らかい感触があたしの口を塞いで。


息をすることも忘れ、目を見開いた。


まるで、時が止まったように指先さえも動かせなくて。


言いたいことも、聞きたいことも。


山ほどあったはずなのに。


ゆっくりと唇を離したみぃは、あたしの瞳を捕らえた。



『…ヒナのチョコ、誰にも渡したくねぇから。』


「―――ッ!」



みぃの言葉が、理解出来ない。


今しがたみぃは、“好きな人以外受け取らない”と言ったばかりなのに。


それは、あの子の告白を断るためだけの口実だったの?



『…ヒナが誰にあげるために作ろうと、関係ないよ。
他の男に渡すくらいなら、絶対に離さない。』


そう言ってみぃは、あたしを掴む腕を持ち上げた。


握り締めていた銀色のラッピングが、あたしの顔の前に来て。



『…好きだから。
このチョコも、ヒナのことも渡したくないんだ。』



“好きだから”と。


みぃはあたしに囁いた。


聞き間違いなんかじゃない。



「…嘘…!
みぃには、高岡さんが居るじゃん!!」



もぉ、何も信じられなかった。


元々チャラいみぃの嘘なんて、どこからどこまで?


キスも当たり前だったじゃない。


あたしも結局、みぃの中でその延長線上にしか居ないんだ。


わかってるから、期待なんてしたくなかったのに。


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