《短編》猫とチョコ
梅雨
梅雨に入った頃くらいから、あたしの機嫌はあまり良くなかった。


大学生になった彼氏との、生活のズレ。


降り続く雨も手伝って、睨むような目で空を見上げてしまう。



『…みぃくん、今日も休み?』


「…知らないよ。」



みぃに至っては、あまり学校に来なくなっていた。


来ても大体、遅刻が多い。


理由なんて、あたしは知らないけど。


サクラとしては、みぃが居なければ、春本くんもこの席には来ないから。


理由は違えど、同じように不機嫌な日々を過ごしていた。



ポッカリと空いてしまった、隣の席。


いつの間にか当たり前になっていた寝顔が、そこにはないのだ。


一人で見られる教科書も、取られることがないジュースも、だけど何一つ喜べなかった。


ちょっと前にみぃに聞いた、“楽しいの?”の言葉。


今逆に聞かれたら、あたしはきっとみぃと同じように“微妙?”と答えるだろう。



あたしも新しい友達が出来たように、彼氏にも新しい友達が出来るのだ。


環境の変化は、人を変えるのだと改めて思った。


電話やメールは、確実に減っている。


だから、寂しくて仕方がなかった。


どっちかが悪いわけじゃないから、どこに怒りをぶつければ良いかもわかんなくて。


みぃの世話を焼かないで済むのは良いが、

一番後ろの席で一人、考え込む時間が増えたのは目に見えている。


あんなヤツでも、話し相手くらいにはなってるから。


今日も空の色と同じ空気が、あたしを包む。


重苦しいほどの、グレーの色。


こんなの、ちっとも楽しくない。



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