初彼=偽彼氏


 ――てかちょっと待ってよ…?

 あたし―…なんか大事なことを忘れてる気がする―――



「…姫どこ行きたい?」


「――…ごめん、今日行けないかも…っ。なんか用事ある気がするんだよね、なんの用事か思い出せないけど――」


「そうなの?――それってまさかとは思うけど……神藤くんとのじゃなくて?」


 ……菜月が言った神藤くんという言葉にあたしは一瞬戸惑う。


 ――ん?神藤…くん?
 し・ん・ど・う……?


「――神藤くん?……って、ああ――っ!!!!」



 ……そうだった。
 "放課後、裏庭のテラスで"
 ってあたしから言ったんだった。


 あの提案の理由に納得がいかなかったから、もう一回ちゃんとした説明をしてもらおうと思って、放課後また会うって約束してたんだった。


 あたしがなにか忘れてると思ってたのは、これのことだったんだ――…
 忘れっぱなしにしとけば良かった……。


「――ごめんね、やっぱり行けない。あたし今日はパス!!それじゃ、とりあえず行ってきますっ」


 みんなにそう言って、全速力で廊下を走り、階段を掛け降り、靴を履き替え裏庭のテラスに向かった。



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