忘れない日々
時計は既に22:30を回っていた。


出来上がった料理もとっくに冷めている。

紗耶香は机の上に並べた料理たちにラップをかけながら
ソファーの上の鳴らない携帯を見つめた。




もう1回…
あと1回だけ架けて出なかったらもういい。
もう涼介なんて知らないから。


リダイヤルから涼介に電話をする。
呼び出し音が鳴るのを無意識に数えた。


1回…
2回…
3回…


呼び出し音が途切れたかわりに
物凄い騒音が耳に入ってくる。


「もしもーし。さやかぁ?」

それに負けないぐらいのデカイ声で話し出した涼介の声は
あまり呂律が回っていない。


「もしもし?夕方から何回も電話架けてたんだけど。」

「えっマジで?
じぇんじぇん気付かなかったわぁ」

ぜんぜんって言えてないしね?

「涼介、酔ってんの?」

「ん?ちょっとなぁ。
同僚の村田って紗耶香も知ってんだろ?
あいつと仕事終わりに飲もうって話しになってさぁ。
そしたら、あいつさぁ…」

酔ったままのテンションで一人で話しを続ける涼介。

私との温度差には気付かないんだろうか…。

この様子だと今日のこと忘れてんだろうなぁ。
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