男装人生
走り回っていた女の子が足を止める。
そして、彼女が見ていた先をたどれば、これまた彼女にそっくりな女の子が姿を現す。
違うと言ったら瞳の下にホクロが無いのと、雰囲気だろうか。
同じ顔の女の子なのにもう一人の女の子と違って、繊細そうな印象がある。
両手で1冊の本を抱え、怒ったような困ったような何とも言えない面持ちでこちらを見ていた。
「・・・みーちゃん?」
幼い私は突っ立っている女の子に不思議そうに声をかける。
そう、みーちゃんだ。
すると、みーちゃんとは別の走り回っていた女の子が満面の笑みで口を開いた。
「また泣いてたんだよ。みーは泣き虫だから。」
「そうなの?」
玲李がクスッと笑えば、笑みを深めて、してやったりという顔だ。
みーちゃんは下唇を噛んで、本当に泣き出してしまいそうな表情になっている。
「きーは、"また"、暴れていたんでしょ?」
だが泣き出すことなくみーちゃんは眉根を寄せ、咎(トガ)めるような口調でそう言った。
小さな手が本をギュッと握りしめている。
「暴れてなんかないよ。準備体操してただけだもん。」
「ウソだ。パパに怒られたって知りません。・・・慰めてなんてあげないんですからね‼」
「パパなんて怖くないよーだっ‼れいりっ、みーなんてほっといて早く遊ぼっ‼」
このお転婆娘はきーちゃん。
"今日はどんな悪戯をしちゃおうか"と瞳を輝かせながら、玲李の手を引っ張る。
きーちゃんの可愛いえくぼで大抵の悪戯は許されてしまう。
そんな様子を見て、毎回みーちゃんはふくれっ面で佇(タタズ)むのだ。
これは、幼い私達の1日の一コマ。
今では淡くおぼろげな切ない記憶だった。
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