男装人生
「兄しかいないので、こんな可愛い妹が欲しかったです。」
「お兄さんになってくれてもいいのよ~?」
「ちょっ何言ってんだよ!」
調子づく母親に腹立つのを通り越して恥ずかしくなる。
希夜も希夜だ。
妹のいる希夜なんて想像できない。
今の様子だと大切にしそうだけど・・・
「ちょっと圭也変わって。」
「えぇっ⁉」
急に来るものだから、断る暇もなく自分の腕に赤ん坊が乗っかった。
初めての感覚にギョッとする。
腕の中で温かい体温に小さいが確かに感じる重み。
希夜から移されたからか、身じろぎし俺を見るとパチクリと瞳を瞬かせた。
そして、柔らかい小さな手を俺に向けて伸ばした。
ど、どうすれば・・・
「指、握ると落ち着くみたいだよ。」
「お、おぉ」
急いで言う通りにすると、くるみはギュッと俺の指を握り、ニッコリと笑った。
「・・・可愛いな・・・くるみ。」
ふわっとした温かな気持ちになる。
うるさい赤ん坊。
それだけの存在だったのに。
視線を上げると何故か涙ぐむ母親とニヤリと笑う希夜が目に入った。
希夜のヤツ仕組んだな‼って
「ちょっ、何泣いてんだよ⁉」
慌てる俺をよそに本格的に泣きに入るお袋。
「心配してたのよ?産まれてから一度も抱こうとも、ましてや見ようともしないし、くるみのことを赤ん坊って・・・くるみはアナタの妹なの。家族の一員として大事にしてほしいって思うじゃない。学校のことだって何も話さないし、何かあったんじゃないかって・・・。」
かなり心配をかけていたようだ。
自分の事ばかりで周りが見えていなかったのだと、気づかされた。
「でも、良かった。全て希夜くんのおかげよ。」
「いえ。僕は何も。」
「圭也にくるみの事を気づかせてくれて、圭也と友達になってくれて、ありがとう。本当なら母親の私がしっかりしなきゃなのにね。」
「いえいえ。とんでもない。僕がいなくても圭也くんはいずれ気づいたと思いますよ。こんなに素敵な家族なんですから。」
大人にすらすらとそんなことを言えてしまう希夜に感服だ。
でも、確かに希夜のおかげで今日一日で家族の見方が変わった。
家族。
わずらわしささえ感じていたそれは、案外悪くない。
それから、大切で大事なものだと。
前のままだったらきっと、何かを失っていたのかもしれないことも気づけた。
小さな反抗期が終わりを告げたのだった。
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