妖魔06~晴嵐~
心の中の君

加速する

葉桜丞は死んだ。

突然の事だった。

誰にも止める事は出来なかったし、諦めるしかなかった。

あれから、数日が経った霊安室。

「兄さん」

千鶴は泣いていた。

兄の冷たくなった体を支えながら、人目も憚らず泣き続けていた。

自分の責任だと責めつづけながら、愛する人が遠くに行った事で悲しみが心を満たす。

「王子様」

傍にいるロベリアやジャスミン、美咲や子鉄もまた悲しみに溢れている。

「油断した私のせいだ」

ジャスミンは拳を握りながら、唇を噛む。

あの時、即座に千鶴と契約したものの、遅かった。

気付いた時には黒い人影に当たりを囲まれていたのだ。

打って出られる方法もなく、狼狽していたところで黒い人影は消えた。

今、ジャスミンを慰められるほど、誰しも余裕はなかった。

子鉄は霊安室から出て行く。

霊安室の外には人が集まっている。

「彼は」

子鉄に話しかけたのは萌黄だ。

子鉄が首を振り、病院の廊下を歩いていく。

その後を追うように去る退魔師の面々。

他に残ったのは妖魔達。

笹原家族、葉桜家族など。

その中には、病室を抜け出したティアやチェリー、カメリアの姿もあった。

自分を助けた人が、死んだ。

症状は落ち着かないものの、三人ともどのような人間か気になっていたのだ。

でも、礼を言う間もなく死んでしまった。
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