妖魔06~晴嵐~
それが、合図だっただろう。

周囲の空間に異変が起こる。

空間を消滅させるつもりなのか、徐々に狭くなってきている。

それは、俺の目を通して理解した。

ここは敵陣。

明らかに普通でいられるほうがおかしい。

敵が俺達の様子を理解しているはずだ。

さっさと殺さないのは、ギリギリで希望をぶち壊すつもりか。

だが、ジャスミンの詠唱のほうが少し早い。

いけると思いたい。

ジャスミンの頬には汗が流れ始める。

すでに体躯に影響が出始めているのかもしれない。

高等魔術ではあるが、一人の場合、詠唱さえ覚えて体の負担を覚悟でいけば何とか使える。

複数の場合、詠唱が長いのでパートパートで妖魔が詠唱を唱えるのだ。

そして、体にかかる負担が分散されるために、それほど重い術でもない。

唱え続けるジャスミンは一語一句覚えている。

頭の出来が悪いわけじゃない。

だんだんと狭まる世界。

終わりを迎えようとする詠唱。

焦らせてはならないし、言うつもりもない。

もし、転移陣が数秒しかもたない場合、ジャスミンを優先的に世界へと放り出す。

時間がない中で、ジャスミンは高等魔術『転移陣』を完成させる。

宙に現れるは魔方陣で、そこを通れば世界へと出られる。

しかし、もう数秒ほどで空間が閉じようとしていた。

「ジャスミン?」

俺が行動する前に、ジャスミンに転移陣に向かって押される。
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