妖魔06~晴嵐~
「龍姫!」

しかし、龍姫は出てこない。

何かあったのかと思ったが、考えてみる。

もしかすると拗ねているのかもしれない。

「姫ちゃん!」

「丞ちゃん!」

龍姫が転移してきたところで抱きつかれる。

「まったく」

千鶴を背負ってるので、体勢を元に戻すのも一苦労だ。

「丞ちゃんが悪いのじゃ、ワラワのことをずっと姫ちゃんと呼ばぬから」

「悪かったよ。度々すまないが、お願いしていいか?」

「ああ、もう一度呼んでくれればよいぞ」

絶対に本物以外の何者でもないな。

「姫ちゃん」

「もっと、愛を込めて呼ぶのじゃ」

「はあ」

最後になるかもしれない。

俺は龍姫の目を見つめる。

「姫ちゃん」

何故、龍姫がここまで俺に愛を求めるのだろうか。

最初から疑問に思っていた。

俺と龍姫を結ぶ接点は、最初はなかったはずだ。

それなのに、俺に愛を求める。

「姫ちゃん、何で俺に対して好意を持っているんだ?」

「一目ぼれじゃ」

いつも思うが、笑った表情も絵になるな。

嘘だろうが嘘じゃなかろうが、龍姫は俺に好意を抱いてくれている。

疑問に思うことがばかばかしくなった。

本当に、ありがたい話だ。
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