妖魔06~晴嵐~
「あるわけないじゃなぁい」

悪魔の微笑みを浮かべながら、クルトを見る。

「家族を、やるのは、テメエの生き方を否定し、テメエの気持ちを殺す他にねえ。それが、出来ねえってのなら、尻尾巻いて逃げろ。テメエの出番はねえ」

クルトは握り拳を握ったまま動かない。

迷いのない者の動きではない。

甘い妖魔だ。

気持ちを殺せはしない。

だからこそ、甘い葉桜の選択は間違いだっていうんだ。

「クルトォ、あんたのためにお兄さんが口演してくれてるわよぉ。生意気にもさぁ」

俺の腹の拳をめり込ませる。

「が、は」

「でも、不思議ぃ、まだ動けそうなのに、何で攻撃しないのぉ?」

「はあ、はあ」

「あ、もしかしてぇ、クルトに気でも使ってるのぉ?」

「テメエは喋りすぎ、だ」

「図星ぃ?きゃひ、きゃは、おもしろーい。殺すとか言った相手に気を使うとか、ありえなーい」

殺す算段としてクルトの力が必要なだけだ。

今の状態の俺では殺せはしない。

能力が自分自身の液体という時点で、直接攻撃は危険だという事がわかる。

血に触れる事が、どれだけ危険が高まるか。

「く、う、う、うう」

クルトのすすり泣く声が聞こえてくる。

「きゃひ、大丈夫よぉ、お兄さんが動かなくなった後で可愛がってあげるからぁ、安心して待ってなさぁい」

「オラは、そいつを、見捨てる事が、出来ないだ」

「あんたは何を言ってるのぉ?だったら、私を殺すんだぁ」

「あんたは、何で、そんな風に、他者を、貶めるだ?」

「楽しいからよぉ」
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