妖魔06~晴嵐~
「きゃひ、クルトォ、早く動かないと、お兄さんの毒も相当回ってるわよぉ?」

クルトは無言のままで、集中している。

その様子を見ていた女は俺を投げ捨てようとする。

しかし、俺が腕を掴んでいるせいか、離れる事はない。

「病人なんだから寝ときなさいよぉ」

俺の腕をどうにかしようとするが、全ての気力を腕に込めているので、離れない。

もし、訓練をしていなかったら、俺はとっくの昔に死んでいる。

後は、葉桜に渡された道具のおかげなのか。

面倒くせえ状況だ。

「テメエに、反省なんて言葉は、必要ねえ」

「きゃひ、そうねぇ、そんな面倒くさいもの、必要ないわねぇ」

女が俺の腕を手刀で切り落とす。

「が」

人形の糸が切れたように倒れこみ、起きようとしても立ち上がれない。

「クルトォ、あんたをいじめる時間がきたわよぉ」

女がクルトに近づいた瞬間、女の表情が変わった。

「何よ、これぇ」

クルトの集中していた結果が出たのか。

女は胸らへんをみている。

「クルトォ、あんた、やってくれる、じゃない」

顔を上げてみると、女の胸らへんには穴が開いている。

穴といっても貫通しているわけではない。

皮膚と肋骨に穴が開き、心臓がむき出しになっている状態なのだ。

「本当、殺したくなるわぁ」

クルトは集中しすぎたのか、息を荒くしながら膝をついた。

しかし、女は何事もないかのように、クルトに近づいていく。

「ち、面倒くせえ」

俺の体力も魔力も残り少ない。

魔力が回復する道具をつけているとはいえ、それを上回る程の傷を負っている。

面倒ではあるが、女をやるのは今しかないのだ。
< 167 / 278 >

この作品をシェア

pagetop