妖魔06~晴嵐~
琴は俺の腕の中から飛び降りる。

「琴?」

「丞ちゃんは琴の事を考えたニャ。琴も丞ちゃんの事を考えるニャ」

「琴の気持ちはありがたいけど、難しいぜ?」

「琴は葉桜の家の者にゃ。そして、甘露寺の家に嫁いだにゃ。だから、ある程度の事なら、丞ちゃんにしてあげるニャ」

話に聞いたところによれば、葉桜と甘露寺は妖魔の中では貴族の内に入るはずだ。

もしかすると、琴は魔術を使えるのではないか?

しかし、今、魔術を使うのは琴の体に負担がかかるという事だ。

瘴気が更に濃くなっているし、不幸・幸せパワーで魔力も使っている。

その上で、高等魔術を使うとなれば、相当な魔力消費量があるだろう。

建物の中にも瘴気が入り込んでいるとすれば、どこでやっても同じだ。

他の妖魔達もすでに瘴気に侵されているかもしれない。

時間は、ないのだ。

「分かった。転移して欲しいところがある」

「吟ちゃんの孫の丞ちゃんの頼みなら、お安い御用ニャ」

幸せ、不幸という言葉を使わない琴が頼もしく思える。

「龍姫の住処は、知ってるのか?」

「吟ちゃんの女かにゃ」

「まあ、そうなるのかはわからないが」

吟が龍姫に対して行ったセクハラ行為からして、女と見られてもおかしくはないだろう。

「一度、行った事があるニャ」

「そうか、ならそこに頼む」

猫の姿のまま、詠唱を行い始める。

「琴、耐えてくれよ」

そして、龍姫の住処へと転移する事となった。
< 210 / 278 >

この作品をシェア

pagetop