妖魔06~晴嵐~
無事、俺達は転移できたようだ。

「琴」

「はあ、はあ、何とか、やったか、ニャ」

琴は倒れる。

俺はすぐさま近寄り、抱きかかえて様子を見る。

とても苦しそうだ。

体にかかる負担が大きすぎたんだ。

吟は何度も転移術を使っていた。

大妖魔ではなくとも原初に近き者という大きな素質があったからこそなんだ。

だが、琴は貴族であっても大妖魔ではない。

「ありがとう、琴」

「琴は、丞ちゃんの役に、立てたかにゃ?」

「お前は凄いよ。俺には出来ない事、やってのけるんだしな」

「丞ちゃんに褒められたニャ、幸せニャ」

温かさを増す。

しかし、幸せパワーの回復が追いつかない。

「丞ちゃん、ワラワに任せよ」

背後には神殿から出てきた現世の服を着た龍姫が立っていた。

「すまない」

「良い」

その一言だけを言い、龍姫は魔方陣の中に琴を入れる。

そして、詠唱し、琴を回復させ始める。

「さて、丞ちゃん、そなたが必要とするのは、人心転移術じゃな?」

「分かってたのか?」

なんて好都合な展開なのか。

「何、現世でのことはこちらにも伝わっておる。じゃがな」

「何だ?」

「ちと、やっかいな問題までも、丞ちゃんは持ってきてしまったようじゃ」

少し離れた位置が転移し始めている。

この世界に誰かを呼び入れたのか。
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