妖魔06~晴嵐~
白い女の死体から放たれた物は、黒き瘴気であった。

清らかなる世界が、尋常ではないスピードで黒く侵食されていく。

拳を握り締める。

今、俺がやめろと言ったところで、龍姫は詠唱を中断しない。

それくらい、わかっている。

長い付き合いの上で、今の関係がある。

俺を見ている龍姫は笑う。

俺の考えていることを見透かしているかのような笑いだ。

「龍姫」

詠唱は続いていく。

黒い侵食も続いていく。

どちらが速いかなど一目瞭然であった。

きっと、黒い瘴気は龍姫の体に影響を与えるだろう。

もはや、誰にもとめることはできない。

精神を蝕む病原菌がすぐ傍までやってくる。

「まだだ」

冷静になれ。

思考を停止させるな。

まだ、ここで諦めるわけにはいかない。

今まで、俺はどれだけの恩恵を彼女から受け取った?

生きる力をもらったのに、俺が何もしまいままではつりあいがとれない。

「イヴァン、お前の思い通りにはならねえぜ」

龍姫が詠唱を集中できる環境を、作り出す事が俺には出来る。

それだけの能力を、俺は美咲に手渡されたじゃないか。

この世界で黒い侵食を止められないというのなら、別の世界を作ればいいだけだ。

俺は集中する。

そして、黒き世界は一瞬にして白き世界に塗り替えられた。
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