妖魔06~晴嵐~
何故、体の中にいる時に使えなかったのか。

生きている時には魔術を使える肉体の仕組みになっていなかったから仕方ない。

だが、精神体になった時に使えなかったのは、儀式めいたものを行っていなかったからなのかもしれない。

儀式めいたものというのは、先ほどの譲渡の事だろう。

譲渡されない状態では能力は使えても、魔術は使えない。

だが、龍王により解禁された。

「『隠』!」

印を結び、俺は唱えた。

吟の周りに透明の囲いを作る。

時間稼ぎにすらならないかもしれないが、ないよりはましだ。

そして、俺はイヴァンのほうへと走り始める。

「イヴァン!ここでお前を止める!それが、皆に託された俺の役目だ!」

俺の持てる力を全て出し切る。

相手の出方を伺っている暇などない。

俺は、今まで止まっていたのだ。

ここで動かなければ、どこで動けというのか。

片手に母さんの能力である闇の球を、片手に美咲の能力である光の球を。

「それで、終わると思うところが浅はかだ」

イヴァンもこちらに向かって走る。

「これで終わらせると思ったところも、浅はかなんだよ!」

俺は両手に作られた球をくっつけ、融合させた。

しかし、目の前でイヴァンの姿が消える。

「ちぃ!」

「私の前アル」

そう、すでにイヴァンは吟の傍に飛んでいた。
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