妖魔06~晴嵐~
ティーカップを持ち上げ、口を付ける。

「撃ちたければどうぞ」

眼鏡の奥の眼は、冷たくジャックを射抜く。

トリガーに手は伸びているものの、引く事はない。

「ふふ、どうしたの?」

見透かしたように笑う。

しかし、目は笑っていない。

走る緊張。

一発触発の状況下で、時間ばかりが過ぎていく。

「あなたと私は『ルール』の上に立たされている」

ティーの水面に波紋は浮かぶ事はない。

それは、秋野の心を表しているかのようである。

「あなたが撃つとすれば、再び『ルール』を変えた時だけ」

「お前に明日はない」

揺るがない信念は、ジャックを突き動かす。

「あなたに、出来るかしら?」

「『ルール』移動禁止」

トリガーを弾く。

しかし、秋野に向けて放たず、傍の闇に放つ。

影が少しばかり歪み、銃弾は消えた。

銃弾が再び現れたのは、ジャックの真後ろからだ。

弾丸を避けられるほどの足は持っていないし、移動は禁止されている。

当然、ジャックの背中部分に当たる。

数十秒経っても、ジャックは何事もなかったかのように立っている。

ジャックは防弾チョッキを身につけていた。

それも、ライン=モールに極秘に開発させていた最新型だ。

「私が人間を認める事無く、何も知らなければ勝負なんてとっくの昔についていたでしょうね」
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