妖魔06~晴嵐~
同じ時を過ごしているとも思えた帰り道。

変化はあった。

そう、クルト自身にとっては『凶星』とも言える存在を見てしまった。

「クルト、久しぶり」

妖魔の里に、いるはずのない血の繋がりのある他人。

それは、実家にいるはずの三姉妹の次女である姉だった。

「こんな辺境の地にいるものだから、驚いたわ」

姉とクルトは反りが合わない事で有名だ。

親に見つからない場所で、姉にいじめられている事が多かった。

優しさなど見せた事がない。

姉の事を、クルトは嫌っていた。

それは、逆も言える。

クルトは驚きのあまり、開いた口が閉まらない。

「一族の恥ね」

「何故、あんたが、ここにいる?」

「姉に向ってあんたとは、大層な口の聞き方じゃない?」

姉の表情は変わらない。

クルトは姉の些細な変化に敏感であった。

些細なミスでも怒る姉は、『あんた』という言葉に怒らないわけがない。

「オラは、もう家に帰るつもりはないだ」

強い意志の篭った目を持っている。

確かに、姉にいじめられた記憶があるかもしれない。

その恐怖は、一朝一夕で治る物ではない。

しかし、家族と離れた年月は長い。

日々の生活の中で、更なる恐怖に会う事で姉に対する恐怖心は薄れていた。

そして、社会に出て人と接する事で、柔軟性を手に入れた。

柔軟性とは、認識の許容範囲を広げる事でもある。

そして、戦場において、大胆さや覚悟も同時に手に入れた。

成長をしたクルトは、考える余裕を手に入れたのだ。
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