妖魔06~晴嵐~
「あ、そ」

姉の目つきが急変する。

まるで、獲物を狙うかのような恐ろしい物。

クルトは姉の姿を知っている。

幼少の頃に一度だけ姉が怒り狂った事があった。

変鎖は解け、周囲の物を破壊する。

理由は、クルトが姉の『玩具』を逃がしたからだ。

『玩具』といっても生きた妖魔であり、妖魔は牢屋の中で苦痛を訴えていた。

もちろん、クルトの親は知らない。

姉は隠し事をするのも、誰よりも上手かったのだ。

クルトも偶然知っただけであって、本来ならば知る事はなかった。

お互いに苦しみを味合わされている同士、引き合ったのかもしれない。

最初は近づくまいと思っていた。

しかし、見るに見かねて、少し話しただけでも、妖魔のされている事は理解できたのだ。

クルトは、妖魔の顔を見て耐えられなくなる。

正しい事だと思い、隙を見て逃がす。

しかし、姉にとっては怒り狂う原因となった。

最終的にはクルトの親が止め、事は収まる。

姉は、生まれた頃より気が触れていた。

周囲の物を壊す事で快楽を感じ、自分の糧としていた。

普段は誰にも迷惑をかけないような、家族からは信頼を得る姿を装っている。

気が触れているといても、常に破壊行動をするわけではない。

だから、恐ろしい。

境界線を知っているからこそ、今まで閉じ込められる事無く生きてきた。

姉は、愛を知らない。

知ろうともしない。

必要がないと、思っている。

理解はしているが、それはあくまで頭の中で描いた理論だ。

それは知らないと同義である。
< 54 / 278 >

この作品をシェア

pagetop