妖魔06~晴嵐~
重苦しい空気がクルトにまとわりつく。

唾を呑んだ。

「私はあなたの事を許したわけじゃないのよ。でも、我慢して譲歩しているんだけどね」

指を二本咥える。

そして、指を嘗め回した後に取り出すと、唾液が指に纏わりついていた

「あなたの力はとても怖い。でも、あなたは優しい子」

そう、姉とクルトの違いは一つ。

血を繋がっている者を攻撃できるか否かであった。

「あなたは私の力を理解していると思うけど」

指先から垂れる唾液。

そして、唾液は生き物のように動き始める。

姉の力は自分の体液の操作である。

唾液、汗、涙、様々な体液で色んな事が出来る。

しかし、それだけではない。

体液に自分の意思で毒を込められるのである。

それで、何人の妖魔達が苦痛にもがき、犠牲になってきたのだろうか。

「今回は、ギリギリ生かしちゃおうかな?殺しちゃおうかな?」

指先から蛇のように、鞭のように襲い掛かる唾液。

「やりたくないだ」

必死に逃げながら、周囲の状況を把握するために集中する。

「あなたは私の性格を分かっていると思っているのだけど?」

「オラは、そんな気分じゃないだ」

「でも、私はあなたを甚振って甚振って、甚振りとおしたいわ」

自分を犠牲にすれば、全てが丸く収まる。

以前のクルトならば、それも良しとしていたかもしれない。

しかし、葉桜丞によって、何度となく助けられた事でクルトの心に変化が起こっていた。

そう、葉桜丞の助けたという行動を無駄にしていいのかという考えが浮かんだのだ。
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