妖魔06~晴嵐~
固まった唾液が刃のように襲い掛かる。

クルトは思考する。

回避方法を、姉を止める方法を。

クルトは能力で自分の足元に裂け目を作った。

そして、地中に穴を開け続けながら、進んでいく。

姉に攻撃は出来ない。

クルト自身の心が拒んでいる。

だから、逃げるしかない。

しかし、そうする事で、他の妖魔達に危害が加わればどうなる?

クルトは、足を止めた。

もし、それが先輩ならば?

もし、それがかつての仲間ならば?

姉の事だから、クルトをいかに苦しめるかなどは知っている。

クルトは歯軋りを行い、向きを変えた。

そして、地中から再び地上へと向う。

外に出ると同時に、唾液の刃が襲い掛かる。

真横へと飛びのくものの、腕に傷をつけられた。

下に逃げたところで、再び上に上がらなければならない。

同じ事に繰り返しである。

「あらー、残念ね」

即効性の毒の影響か、視界が霞み始める。

「く、は、はあ、はあ」

息もしにくくなり、クルトは膝をついた。

「さて、どうしようかしら?」

「何故、そこまでして、他者を傷つけるだ?」

「楽しいからよ」

「他者は」

「弱者の言葉は必要ないし、聞く気もないから」

手を挙げ、必要のない意思としてひらひらさせた。

「オラは、まだ、あんたを、姉と」

「ああ、そう、ありがとう。でも、姉に向ってあんたはないわ」
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