妖魔06~晴嵐~
大切にしなければならない。

ここで、負けるわけにはいかなくなった。

俺からも右の拳を振るうが、さすが妖魔だと言ったところか。

確実に避けながらも、拳を繰り出してくる。

俺は拳を受け流す。

その時に、違和感を感じた。

痛みがない。

思うに、神経系に異常をきたしているのだろう。

ゾンビである故の結末である。

ならば、回復も見込めないだろう。

怪我をすれば、龍姫や美咲の回復は期待できない。

縫合手術などは出来るが、効果はない。

ただ、貼り付けてるだけの張りぼて状態に過ぎない。

回復能力や縫合手術の真意とは、自然治癒能力の向上にある。

確かに、大きな傷さえも治してしまえる能力ではある。

それは根本的に存在する『生命力』という物に反応してこそ回復出来る力だ。

『生命力』とは呼んで字のごとく、生きている命を活かそうとする力。

しかし、人間としての基本的な能力が、今の俺には備わっていない。

何故なら、脳から伝わる神経がいかれてるのなら、『生命力』の発生はない。

力を得た代わりに、治癒力をなくしたといったところか。

「ち、生き返ったわけじゃ、ねえんだよな」

「面倒くせえ、野郎だ!」

右からの手刀攻撃。

「刃、お前の攻撃は早いし、強い」

そして、攻撃を見定める目は、俺の攻撃を回避してしまうだろう。

すなわち、単純な攻撃では、刃を捕らえる事は出来ない。

それが、身体能力を向上させていたとしてもだ。
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