モンパルナスで一服を
一話完結(全11ページ)
男がマッチに火をつけた。

口に咥える煙草に灯すでもなく、マッチの先で踊る火をただ見つめている。



風が吹く。

僅かの煙を残して火が消えた。

男は、黒く焦げた先端をなお見つめ続けている。



陽の半分が地平線に隠れる頃、空は仄かに赤い。

男の目線が景色へと移った。

昨日とほぼ同じ一日である。

男の目は景色を映したまま、ゆっくりとベンチから立ちあがる。




画家を生業とする男は、ベンチに置かれた少し大きめの布袋を手に取ると、重たそうに肩に提げた。



重い足取りで歩き出す。

荷物のせいで重いわけではない。

一日に悲観しているだけだ。



男の向かった先は“La Ruche(ラ・ルーシュ)”と呼ばれる集合住宅。

様々な芸術家たちが住んでいる。
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