ゴハンの上にマネヨーズ
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 そのとき僕が何を考えていたかというと、

 地下鉄の車内に吊り下げられた、『疑惑のデパート 恫喝と暴行疑惑まだまだある!』とか、

『北九州少女監禁傷害事件 17歳少女が打ち明けていたもう一つの殺人』といった

週刊誌の広告の見出しに踊る社会的なニュースであるわけは当然なく、

昨日行った美容院の兄ちゃんが、

「デリヘル嬢とセックスしたで」

と自慢気に言っていたことについてだった。

 さらにうらやましいのは、その美容師の兄ちゃんがデリヘル嬢とセックスフレンドになっているということだった。
 
 鼻がでかく彫の深い僕の担当美容師のミツヤマさんが言うには、

「最近のデリヘル嬢はフツーにかわいいで」

ということなのだそうだ。

 しかし、「フツー」にかわいい娘が、客に言われるがままにセックスをするだろうか。

 そんなこと、するわけがない。
 第一、そんなことをしてもそのデリヘル嬢にはなんのメリットもない。

 いや、まてよ。

 普通、「フツー」にかわいい娘は風俗の仕事などしないはずだ。ちょっとくらい、お金に困っていたって、そういう仕事が嫌いな娘は、やっぱりしないだろう。

 特段の事情のない限りは。

 それでも、「フツー」にかわいい娘がデリバリーヘルスのような仕事をするということは、だ。

 やはり、多少なりともセックスが好きだからやるのではないだろうか。

 セックス好きということはヤリマンだ。
 
 ヤリマンなら、僕だって、まだまだおっさんではなく24歳の「ヤング」なわけだし、

それなりにファッションにも気を遣っていて、財布にはウォレットチェーンなんて付けているところも評価は高いわけだし、

オアシスとかレディオヘッドとか、プライマルスクリームといった洋楽の新譜は欠かさず買っていて音楽好き的な雰囲気も出しているわけだし、

「木更津キャッツアイ」とかいう若者向けのテレビドラマだってチェックしているわけだから、

もし僕がデリヘル嬢を部屋に呼んだら、むしろ向こうからセックスをねだってくるのではないか――

といったどうでもいい問題を、僕は必死に考えていた。

 どうでもいいが、3年以上セックスから遠ざかっている24歳の男には切実な問題だった。
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