ゴハンの上にマネヨーズ
 車両の外装にイメージカラーのピンクを使用した、僕が通勤に使う趣味の悪いその地下鉄は、街の東西に路線を走らせていた。

 この街には他にも何本か地下鉄の路線があって、それぞれ赤や青や紫といった色をイメージカラーにしていたが、僕が通勤に使う路線は、たぶん、乗客数も下から数えたほうが早い不採算路線だった。

 だいたい、ピンクなどという色は、特撮戦隊もの一つとってみても主役にはなり得ない。

 女子高生に

「かわいい~」

とでも言ってもらって、乗客増を目指したのかも知れないが、車内は灰色スーツのサラリーマンと、黒色の学生服を着た男子高校生であふれ、ただでさえ薄暗い車内をより暗く見せていた。

 僕はつり革にしがみ付いてなんとか立っていたが、次の停車駅を知らせる無機質な車内放送は、朝の絶望的な気怠さを一層重苦しいものにした。

 時折、吊り革がキリリ、としなり、僕はその音を聞く度、本当に空気の重さが増しているのではないかとさえ思った。

 薄暗く、重苦しい車内の中で、唯一、目の前に座っている女子高生の短いスカートからすらりと伸びた生足だけが、取り替えたばかりの蛍光灯のように白く輝いて見えた。

 電圧が変わったのか。車内を照らす蛍光灯の明るさが、一段階変化した。

 暗くなったのか、明るくなったのか、よくわからなかった。瞬間、林檎のような、甘くむせぶ香りが僕の顔を覆い、誰かの首筋にむしゃぶりつきたくなるような衝動に駆られた。

目の底の方が、ジジジ、と痺れた。
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