ゴハンの上にマネヨーズ
「おまえのスーツ姿ってなんか変な感じな」

そう言うミヤシタの着ているストライプのスーツの方が、イタリアの伊達男のようで、よっぽど似つかわしくなかった。

「おまえに言われたないわ」

「まあ、よう見とけよ。俺のスーツ姿は今日で見納めやからな」

僕はミヤシタの言っている意味が解らなかった。

「どういうこと?」

「いや、実は今日で会社辞めようと思ってんねん」

「はあ?」

「今から、辞表を出しに行くねん」

「マジで?」

「マジで」

「えっ、マジで?」

「マジで!」

『ハハハハハハハハハ』

僕達は顔を合わせて笑った。

「マジで?」

「しつこいねん!」

「え~、辞めてどうすんの?」

 僕が聞くとミヤシタは

「どうするって言われてもなぁ」

「いや、ホンマにどうすんのさ?」

「ちょっとな」

ミヤシタはもったいぶった。

「ちょっとってなんやねんな」

「まあええやん。卒業以来会ってない奴に、いきなりそんな真剣な話なんか出来へんわ」

2年振りの2人の会話は、それで終わってしまった。

 カタン、と車両が大きく揺れて、無機質な車内放送が次の駅名を告げた。

「おまえどこまで行くの?俺次の駅で乗り換えやねん」

ミヤシタが口を開いた。

「ああ、そうなんや」

僕はそっけなく答えた。

硬いブレーキの音がして電車はスピードを緩めた。

ドアが開くのとほぼ同時にミヤシタは立ち上がり、

「ケータイ変わってないからさ、また連絡してや。飲みに行こ」

と社交辞令を言って、薄暗く重苦しい車両から一足早く抜け出していった。

あっという間に、ミヤシタは人の流れに消えた。

降りていった客より、さらに多くの客が乗り込んできた。何故か、僕も電車を降りた方が良かったかな、と思った。

僕は空いた座席に座って腕を組み、ミヤシタのことについて何か考えようとしたが、目をつぶるとそのまま、乗り換えの駅まで寝てしまった。
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