二人の日常
寄り道
 少女は、中学校からの帰り道、ただ何となく、寄り道がしたくなった。
 少女はいつもと、違う道へ曲がってみた。新しい骨董品店でも見付かってくれたら、そんな事を思いながら。
 曲がった道には、石の塀があった。所々、苔でも生えているみたいに、緑色に変色している。少女はそれが、何とも言えず、気分が良かった。昔懐かしい、和の雰囲気は、少女の好むところだった。
 鼻歌でも歌いたい気分、そう、少女が思った時だった。鼻を、微かにくすぐる、煙草の香りに、少女は、顔を上げようとした。その瞬間、風が、強く吹き上げて、少女は思わず、目を瞑る。
 再び目を開けると、石の塀の上に、一人、髪の長い男が、風に、煙管の煙を燻らせていた。
 気配など、少女は感じなかった。“男は突然現れた”少女には、そう思えた。少女の目には、男は幽霊に見えた。
 男は、深く、煙を吐き出すと、目線は空を見据えたまま、少女に、声をかけた。
 「お嬢さん、迷子かな?」
 よく通る、低すぎず、高すぎない、耳に馴染む声だった。
 「・・・そこ、わざわざ梯子で登ったの?」
 少女は、男の、少しからかいを含んだ言葉を、右から左へ聞き流しながら、ぼんやりと、男に問うた。
 男は、少女を見て、小さく笑う。
 「わからないよ?僕は、空を飛び、ここに腰掛けたのかも」
 「・・・うそ」
 少女は、何となく、胡散臭いその男を、観察した。年の頃は、三十そこそこだろうか。見た目は若そうだが、妙に落ち着いていて、判断しにくい。眼鏡越しの瞳からは、感情が読み取れない。どうやら、幽霊ではない様だが。
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