下くちびる
痛み。
「何も言わないで、
すぐおわるから。」
私はあの時、
殺されるんだと思った。
いや、
あの時本当に
殺されたんだと思う。
男はおそらく同年代、
でもたぶん2~3才年上。
今も覚えてる。
深くかぶった
ネイビーのニット帽。
浅黒い肌、
右手親指にシルバーのリング。
私に覆いかぶさり、
私の全部を
奪っていった。
全部で、初めてだった。
場所は近所の公園。
公園内にある、
障害者用トイレ。
アコーディオン状になった
汚い扉。
暗く臭い空間。
目を閉じていた。
奪われる嫌悪よりも、
殺されたくない恐怖が強かった。
すべてが終わり、
白濁した物があふれる自分を、
心底汚く感じた。
本当に本当に悪いコ。
本当に本当に悪いコ。