【短編】瞳
「勝手に……はぁ……泣いてんじゃねーよ……はぁ……」
後から急に抱きしめられて……耳元で、少し息の上がった矢野君の声がする。
耳にかかる息。
荒い呼吸。
熱い体。
「矢……野……君?」
「お前……チビでトロイ癖に足早過ぎ」
チビは関係ないもん。
笑いながら言われた悪口。どうして?
「お前さ? 俺見てビビッてるし……。
いつも恐がって瞳合わせないし。
他の女みたいに話かけれないし……ウザイ」
――ウザイ。
……何?
文句言う為に追い掛けて来たの?
また溢れ出した涙。
でも泣いている事がバレたくなくて。
堪える声。
なのに……どうして気付くの?
「だー! ……声我慢して泣くなよ……」
「だって……矢野君が」
「わぁーってる」
消えそうな私の声に大きな声が被る。