【短編】瞳
「馬鹿って……?」
「あ、聞こえてたんだ」
どーせ……。
馬鹿ですよー!
でも、馬鹿って言われた事より、“可愛い”って一言の方が残ってる。
まさか矢野君がそんな事を言うなんて。
聞き間違いなんかじゃないよね?!
「俺、原田の事好きじゃねーよ?
お前が好き……だから付き合ってんだし」
急に真面目な顔。
それに、頷くだけの私。
「お前も俺が好き……なんだよな?」
また、頷く私。
「じゃあ、何でんな事考えんの?」
「……私、馬鹿だし」
「だっだから、それは……っ」
矢野君が、喋るのなんて無視した。
「トロイし。鈍臭いし。
……何で私と付き合ってるのか、わからなくて」
「そんな事……気にしてたん?」
真剣に話してるのに、笑う矢野君を睨んだ。
さっきの仕返しなんかじゃないよ?
本気で思ってた事だったんだ。
どうして私なの?って。