君の胸に鳴る音を、澄んだ冬空に響かせて



「ちょ…!お客さん!困るよ!」

ステージ脇に控えていたのだろう、会場スタッフのような人が出てきて、マナー違反の彼女を抑えに入った。


「離してよ!きゃーっ、エグチーっ!」


あたしは、とっさに江口さんを見上げた。

自分が呼ばれたことに驚いているらしく、唖然としている。


そうだよね、こういうことだけは鈍いんだ。

ズルい人だよね、自己中のくせに。


取り押さえられながらも、なおエグチを呼び、叫ぶ彼女のように、あたしはなれない。

素直に好きな人を呼べるほど、熱狂的になれないし、そんな自信もない。

「あたしじゃ、ダメかな…」

…きっと気づかれないだろうな、、、



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