透明なカケラ、ひらひら
恋に落ちるのは意外に簡単だ。
その続きを綴るのが難しいだけで、愛おしい人と思い込んで始まる恋は簡単にはじめることができた。
自分を大切にしなくても良かった。保守的なひとが声を荒らげて言うほど、自分を大切にするということ自体興味がなかった。
他人から軽い女だと思われてても、自分ではそう思わなかったし、いまが良ければそれでいいと、思い込むようにしていた。ひとりでいられない。ひとりでいるくらいなら、誰でもいい。求めきた男で、許容範囲の顔ならだいたい寝た。毎日呼吸だけしてる。そんな日々でも不満はなかった。
週末誰かと寝る生活はひとりでいる孤独を少しだけ誤魔化してくれた。
寂しい。そんな気持ちが自分をだめにした。
強くなろうなんて努力しなかった。



ふぅ、とひと呼吸ついて、一瞬きつくまぶたを閉じた。
目を開いたと同時に歩き出す。
乱雑なテーブルと椅子、人混みを掻き分け歩いた。途中、顔見知りの男になにか話しかけられたけど、ほどんと聞き取れなかった。わたしの耳はいま音を聞き取れないほど、前へ進むことに集中していた。
「おごってくれるって。何飲む?チンザノ?」
テーブルへ着くとすぐ彼女が言った。
うん、と小さく返事をしてテーブルにひるひとりひとりの顔をみた。
胸が高鳴る音が誰かに零れてしまうんじゃないかと、必死で平静を装っていた。指先が冷たくなる。だけど、頬が高揚する。カラダが熱を帯びていく。自分じゃ止められない気持ちに、呪文のように、静まれ静まれと心のなかでつぶやいた。
「おれらさ、サッカーチームなんだ。あ、草サッカーね。で、今日は試合の帰り!もちろん勝利の美酒ってうやつ」
このテーブルにいる男のひとりがテンション高めに言った。
すこいじゃん、リオは隣で楽しそうにしていた。どうやらこの男が気に入っているらしい。リオはどこへ行ってもすぐ馴染む。ただ、親しくしていたかと思えば、次の瞬間には気まぐれなネコのように、もう知らない、と気持ちを反転させるのも得意だ。
それに振り回される男性は少なくない。
しかし私はそこが彼女の一番すきなところ。
彼女の週末は罪作りの時間なのだ。だけど、彼女の美しい横顔とくったくなく笑う態度は誰をも魅了し、それで全てが冤罪となった。

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