透明なカケラ、ひらひら
「強い酒のんでんね」
ふっと横を見るとニコっと笑った青年が立っていた。
「さっきさ、あのテーブルのとこいたでしょ。オレもあいつらと一緒に来たんだ」

私は、ほてりの収まらないカラダをお酒で誤魔化そうとしていた。
お酒とってくる、とユウキに告げ高揚した頬を隠すようにうつむいてカウンターをに並ぶ列に紛れた。
バーカウンターには、いつものブラジル人のバーテン。挨拶代わりに私を口説いてくれる。もちろん私だけ特別ではなく、女性なら分け隔てなく愛してくれる、そんな軽薄さがココではとても気持ちいい。

「そうなんだ、わたしの友達はまだいるけど、ホラ、ショートのきれいなコいるでしょ、アレ、わたしの友達」
カレはああ、笑った。とても顔立ちが整っていた。ウェーブがかった柔らかそうな髪の毛は、ライトにで色が透けてきれいだった。
「俺、ナオキ。ナオでいいよ」
そのあとに、名前なんていうの?と聴かれると、わたしは吹き出してしまった。
「なんで。なんでわらうのさ」
ナオが私の肩を小突きながら笑った。
「いや、ココには名前なんて聞いてくるひといないからさ。あ、今日は2度目。変な日ね」
半ば独り言的に返事をして、カウンターからチンザノを受け取った。
私は、少し人の少ない壁際まで移動し、壁に備え付けのカウンターテーブルに持たれた。
追ってきたナオに、チンザノのグラスを近づけ、飲む?と聞いた。
彼が支払いをしたからだ。
ナオはカウンターでビールを受け取ったようだった。
「こんな赤い酒、飲むの?じゃあ、ひとくち。」と言って、私の手に持たれたままのグラスへ口付けた。
「あま・・・。実はあんまりお酒得意じゃないんだよね」
と笑った。
さっきも聞いたな、と私は思いながら、チラっとユウキのいるテーブルのほうへ視線を送る。
楽しそうに笑うリオは見える。でもユウキは見えなかった。
「ナオもサッカーしてる人?」「そうだよ」「じゃぁ、おめでとうだね、試合勝ったんでしょ」
「ありがと」と言うのと同時にナオが唇を重ねてきた。
「・・・ダメ?オレ、すげー好みなんだ」
ナオのキスは強引で、ダメかどうかの答えなんてどうでもいいようだった。すでに彼の舌が私の中へ割り入ってきていた。
「やだ、だめ」と唇を強引に引き離して言った。
こんなこと、ココではよくあること。名前もしらない男と唇を重ねるなんてたいした意味もない。
でも今は少し違った。脳裏はユウキの顔が浮かんでいた。テーブルからは少し離れているとはいえ、見える範疇にはある場所。胸が変なリズムで鼓動した。
「なんで、オレじゃだめ?」
「だめもなにも・・・」チンザノをカウンターテーブルに置きながら、視線は彼を探す。
「じゃあ、もう一回していい?」
ナオはもう一度キスをした。「ダメだってば」私が言葉にならない言葉をもらしたとき、視界の隅にユウキの顔が見えた。
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