S・S・S



反省会後、ひとりブースに残ったあたしは、パソコンを立ち上げて、リクエストメールの画面を開いた。


目的は、ラジオネーム【とんがり帽子】さん―…。そう。シュンくんの、メールアドレスを確認する為に。




「あったあった、“トンガリ”さん…―」



本当は、寄せられたメールのアドレスを、こうやってあたしが入手する事は禁止されている。

本来の目的以外に使用することは、個人情報の漏洩に当たるから。



けど―…



「知ってる人だし、個人的に用があって、呼び出すだけだから、良いよね…」


素早く自分の携帯にシュンくんのアドレスを登録して、あたしは彼に連絡をした。



――…なんだか、気が重い、けど…


でも、私たちが従業員用の寮に立ち入る事は禁止されているし、ちゃんと話をしようと思ったら、彼をこちらに呼ぶしかないんだ。





『お話があります。今夜0時に、ホテルのロビーで待ってます。サラ』


短く、要件だけ打って送信する。


深夜なら、あまり人もいないから…きっと、ちゃんと話が出来る。




だから

その時間と場所を指定したんだ、けど―…




―――――…





あたしは、決定的なミスを犯した事に

まだ、気付いていなかった。








「っとに、コイツは―…。」


黒の折り畳みケータイを開いて、
男が、ポツリ呟く。


誰より愛しいその声を
ゲレンデに降る雪が、静かに吸い取って、消していった――…。




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