S・S・S
「…烈火さん、思ったより真剣にお前のこと気に入ってるみたいだからな。お前、しばらく放してもらえないと思うぞ。社員として入社って話になるのか、フリーで契約になるのかも考えておいた方がいい。…ま、それもそのうち烈火さんから話があるだろう。」
「そっか。気に入られてるんだ…あたし…」
あ、なんだろ。この抵抗感。
烈火さんが嫌いなわけじゃない。
そうじゃなくて…
「なんだ、イヤなのか?」
トウマは、あたしの迷いを的確に突いてきた。
「ううん、そういうんじゃないんだけど…なんか…はやいなぁって。展開のスピードについてけないっていうか…。」
次々に展開される状況に、足踏みしてしまうんだ。
そんなあたしをからかうように、トウマは笑う。
「秋からがむしゃらに走ってきたくせに。」
「それは…!だって、」
――…あなたが、いたから。
目の前に、常にトウマがいたから。
「…トウマが、いたからだよ。」
「は?」
「はやく一人前になりたくて、どうにかあなたと同じ土俵に立ちたくて、今でも立ててる自信はないけど、とにかく仕事だけは早く覚えようって…ようやく、少し出来るようになったかもって思ったんだけど…今度は春からの仕事の話でしょ。春からっていうか、あたしの人生、これで大きく方向を決めちゃうような気がして…急に不安になったの、たぶん。」
トウマは、何も言わずずっとあたしの目を見つめている。
心を射抜くような真剣な眼差しで。