S・S・S
「…ウェッホン!」
こちらを向いて若干ワザとらしい咳払いをしながら、警備のおじさんが通りすぎた。
ああ、もう6時だ。
なんだかんだしているうちに日はとっぷり暮れて、そろそろ館内を施錠する時刻だわ。
(もうそろそろ出てもらってもいいかねぇ…という声が聞こえるようだ)
ガラスの向こうは人気のないテーブルとソファ。
…そういえば、トウマは。
放送中はずっと、あそこでPCを広げている。ここ以外の仕事…たとえば収録番組の原稿チェックなどをするために。
あれなら、仕事の合間にメールを書いて送るくらい、わけないこと。
だったら…
そうだ。
番組中にトンガリさんからメールが届いた瞬間、トウマのPCを奪えばいいんだ。つまり、現場を押さえて動かぬ証拠を突きつける!
そうよ!それよ!
なんで気付かなかったの、サラ!
や、でも待てよ。
…ダメだわ。
放送中に理由なくブースから出たら、トウマ怒りそう…いや、怒る、間違いなく怒る。考えたくもない、そのあとの反省会なんて。
“たかだか2時間の生放送中にDJがブースから出るだと…?なんだ?緊急事態か?吐き気か?下痢か?あん?オレのPC?ふざけてんのか、お前…”
見える。ああ、とてもクッキリと目に浮かびます。きっと背中には『ゴゴゴゴゴ…』という擬音を背負って大魔王様が降臨なさるわ、ええ、間違いなくそうよ。サラ、いけないわ、これは罠よ。それやったら思うツボだわ。(誰のとは言わないけれど。)