S・S・S


そうだ、あたしは知っている。
トウマが、たまにネイティブ発音で“Sarah”とあたしを呼ぶことを。
あの夜、とても愛おしそうにあたしの髪を撫でたことを。



彼の心には、あたしではない、
でも、
あたしと同じ名前の誰かが、いる。


さっき、あたしを見て、“似ている”って、烈火さんは言った。

あたしが、誰と?

“Sarah”さんが?



似ている、から、なんだって?



「HAーHAHAHAHAHAHA!!!」

空気を一蹴するように、烈火さんが豪快に笑った。

「これは驚いた。トーマスが、キミに“Sarah”のことを話したのかい?」

「…詳しくは、知りません。あたしが知ってるのは…その名前を…Sarahって呼ぶ時、トウマがとても…」



とても、幸せそうだ、ということ。


うな垂れながらそう言うと、烈火さんは再び遠くを見た。窓の外、しんとした空には星がたくさん散らばっていた。

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