S・S・S


「……君が初めてオーディションに来た時のことを覚えているよ。学生が珍しかったのもあるが、まずは日本人には珍しいその名前がね、注意を引いた。」


それは、去年の秋だ。
ラジオCMを聴いて、勢いだけで飛びこんだあのオーディションのとき。


「Sarah、という名を耳にしたのは実に、あれ以来だったからね。加えて、そのふわふわのロングヘアだ。嫌でも“彼女”を思い出した。…それは、わたしの隣にいたトーマスも同じだっただろう。」

「烈火さんも…サラという人のことを知っているんですね。」

「そう、…だね。よく知っている。彼にとって、Sarahがどれだけ大切な存在だったかも、よく知っている。彼にとって、彼女は…」


目を細めて窓の外を見遣った烈火さんを見ていたら、きゅう、と胸が詰まった。




カケガエノ ナイ ソンザイ ダッタンダ




・・・痛い。


息が、苦しい。

いやだ。聞きたくない。でも聞きたい。
聞きたい。
聞きたくない。
ああ、でも。

何と言われなくても、聞こえてしまった。
言葉は空気に溶けて、頭に直接響いた。


あたしは相当、苦しそうな顔をしていたんだろう。烈火さんがこちらを振り返って小さくほほ笑んだ。


「…そんな顔をしないでくれ。すまない、悪ふざけが過ぎた。別にキミを傷つけたい訳じゃないんだ。それに、彼女はもう…」


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