S・S・S
ゆら、ゆら。
灯りが部屋のじゅうたんに不規則な波形を描くのを、あたしはただぼんやりと意識の外で眺めていた。
Sarahさんは、…死んで、いる?
「そんな…っ」
「あぁ…失礼。辛いな。わたしにとっても、彼女は大切な友人だったのでね。」
そう言った烈火さんの目元は、わずかに湿っていた。
「君の言う通り、この話は、ここまでだ。あとは直接トーマスにでも聞きたまえ。」
「はい…」
「ところで、キミは何の用でここへ来たんだったかな。」
「え?、えっと。」
「君とトーマスの恋愛のことかな。」
「………っ!」
怖いくらいの、無表情。
「最初にトーマスに言い渡した通りだ。禁止だよ。」
「な…!」
いとも簡単にそんなアッサリとぉーーー!?
「当たり前だろう。キミは四月からうちの新人アナウンサーで、彼は看板タレントなんだ。局として、これを許すことはできない。」
厳しい、口調だった。
「どう、して、ですか…?」
「商品価値が下がるからだよ。キミはまだ社会に出る前の大学生で、世の中のことをわかっていない。この業界のことも同じくだ。トーマスにどれだけ女性ファンがついていると思う?」
「それは…知って、います。彼のカリスマ性については、一般リスナーだったので、よく、」
「彼だけじゃない、キミもだ。入社早々、22歳の新人アナに男の影、しかもそれがトーマスだなんてことが世間に知れてみなさい。やれコネで入社だの男と寝て仕事を獲っただの、さんざん叩かれるだろう。」
がん、と後ろから頭を殴られたような衝撃を受けた。あたしが?…あたし、も?
「わたしは実力でキミを採用したつもりだ。が、この業界で表舞台に立つ以上、イメージが全てなんだ。デビューからセクシュアルなイメージがついてしまうのは、得策とは言えない。」