S・S・S
*
なんとなく眠れなくて、目が覚めてしまった。
ゲレンデはもうすぐ朝の6時を迎える。
お客さんはいないけど、夜のうちに降った雪を圧雪する為の車が遠くで働いている。
静かだ、凍るように。
でも、ひとりじゃない。
24時間、誰かがどこかで働いている。スキー場って、そういうところ。冷たくて、静かで、でもなんとなく孤独じゃない。温かい。
秋からの約4カ月。ここにいた期間は思えば短いものだったけど、わたしは、この場所が好きだった。…とても。
大きく息を吸って、吐いてみる。
目の前が一瞬曇り、それはやがて空気に溶けて消えていった。
白くて、透明な朝。
振り返って後ろを見ると、斜面にはわたしの足跡が一本、まっすぐな線を描いていた。
「突っ走って、来たなぁ…」
トウマに出会って、電撃的な恋をして、何もわからないまま勢いだけでオーディションを受けて。そして…
こんなところまで、来てしまった。
恋か、仕事か。
ふたつに、ひとつ。
…自分の決めたことに、迷いはなかった。
ただ、あの人の目をまっすぐに見つめ返す自信もなかった。見ればすぐに、揺らいでしまいそうだから。そんなに簡単な選択じゃ、なかったんだ。
それでも。
どちらかを選ばなくてはならない時
と、いうのがある。
願わくは、この道の先があのひとに…
「繋がって、いますように。」
ゲレンデの中腹にひっそりとある小さな神社に、手を合わせた。