S・S・S
*
それは、“一目惚れ”ではなく
まさに、“一耳惚れ”だった。
あれは、2年前の冬だったか。
当時付き合っていた彼とデートの帰り、公園に車を停めて、―…吐息で、窓を曇らせていたときだった。
お決まりの相手、お決まりの手順、お決まりのコース。
半ば飽きてすらいた行為のはず、だったのに。
突然ラジオから聴こえてきた、囁くような甘い声に…心を全部、持って行かれた。
――“ねぇ…このままで、いいの?”――
それは、まさにあたしに問いかけられているようで。
“心臓を鷲掴みにされる”って
こういう事なんだって思った。
『…… サラ?』
突然動きを止めたあたしに、彼は不思議な顔をしてたっけ。
『あ…… ごめん、なんでもない』
それは
心の襞のひとつひとつに
染み込んでいくような
そのくせ、
ねっとり甘いキャラメルみたいな
どうしようもなくセクシーで、あたしを侵食する、声だった。