S・S・S






それは、“一目惚れ”ではなく
まさに、“一耳惚れ”だった。




あれは、2年前の冬だったか。

当時付き合っていた彼とデートの帰り、公園に車を停めて、―…吐息で、窓を曇らせていたときだった。


お決まりの相手、お決まりの手順、お決まりのコース。

半ば飽きてすらいた行為のはず、だったのに。


突然ラジオから聴こえてきた、囁くような甘い声に…心を全部、持って行かれた。




――“ねぇ…このままで、いいの?”――


それは、まさにあたしに問いかけられているようで。

“心臓を鷲掴みにされる”って

こういう事なんだって思った。




『…… サラ?』


突然動きを止めたあたしに、彼は不思議な顔をしてたっけ。


『あ…… ごめん、なんでもない』


それは

心の襞のひとつひとつに
染み込んでいくような

そのくせ、
ねっとり甘いキャラメルみたいな


どうしようもなくセクシーで、あたしを侵食する、声だった。






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